trashtoy’s diary

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歴史を学ぶということ=ソースコードの変更履歴を理解すること

「日本史なんかより、プログラミングを教えるべき」三木谷浩史氏と夏野剛氏が日本の技術者不足を嘆く | ログミー[o_O]

例え歴史の知識が実生活に直接的に影響しないからといって、歴史の教育を軽んじてはいけないと思っています。 歴史を学ぶということは、プログラミングで例えると、今取り組んでいるプロジェクトの過去の変更履歴を正しく把握するということに等しいので。

国民の政治参加をソフトウェア開発に例えると

  1. 政治家「新しい機能追加の変更をプルリク(政策の打ち出し)したので、確認よろしくお願いします」
  2. 国民「リジェクトします。以前○○という問題が issue #xxxx で起票されており、それがリビジョン r19470503 で Fix されていますが、この差分を適用するとデグレが発生します。修正して再度プルリクしてください」

といった具合に、それぞれの国民が、衆愚政治ではなく、個々の知見に従ってより良い民主主義国家を築いていくためには、歴史を学ぶというのが不可欠に思うんですよね。 リビジョン r19470503 の内容は適当にお察しください。

(と言いつつも、「git push -f でコミットログをいじっただろう」「いやしてないよ」という論争が発生したりするのがまたややこしいところなんですが。)

例の「区別アレルギー」の記事を分析してみた

「男向け」「女向け」にみる区別アレルギー 〜ダサピンク現象のズルさと危険性 - YU@Kの不定期村

の記事が最近話題となってますが、感覚的に「なんか違う」とdisるだけだと無益なので、具体的にどういったポイントがツッコミどころなのかを明らかにしたいと思い、まとめてみました。

元記事は以下のような二段構成になっていて

  • 前半:「ダサピンク現象」という用語を安易に使うことへの問題提起(「ダサピンク現象」と呼ばれているものの多くは、実際はダサピンク現象とは言えないのでは?)
  • 後半 :(前半の内容に関連して)男性と女性で明確な性差が存在するのは事実だから、「男性向け」・「女性向け」という区別について盲目的に批判するのはやめよう

後半の主張は(部分的にツッコミどころはあるけれど)わりと同意なので、前半の『「ダサピンク現象」のズルさと危険性』のセクションについて細かく見ていきます。

元記事の要約

このセクションは要約すると以下のロジックで構成されています。


【主張】

「ダサピンク現象」と見られている事象の多くは、実はダサピンク現象ではない。(だから安易に「ダサピンク現象」という言葉を使うのはやめよう)

 【根拠】

  • a. 女性向け商品は実際にピンク色が多い
  • b. 企業のマーケティングの結果、ピンク色を好む女性が実際に多いことは事実である
  • c. そもそもダサピンク現象の定義とは、「女性ってピンクが好きなんでしょ」という決め付けを指す、製作過程の問題である(=商品の性質を指すものではない)

上記より、以下の命題を導くことが出来る。

  • d. 上に挙げた a. b. より、女性向けの商品にピンク色を用いるのはマーケティング上の必然である
  • e. マーケティング結果に従ってピンク色を使用している以上、c. の「ダサピンク現象」の定義で述べている「決め付け」ではないから、それを「ダサピンク現象」と断定することはできない

さらに

  • f. 消費者側の視点では、女性向け商品について、それが生み出された製作過程を知ることが出来ないため、それが決め付け (c.) に寄るものか、マーケティングの結果 (d.) なのかを判断することが出来ない

以上から、巷で出回っている女性向け商品について、安易なダサピンク現象の認定はすべきではない。


このロジックのそれぞれについて、細かくツッコミを入れていきたいと思います。

「ダサピンク現象」を否定するための論理がまさに「ダサピンク現象」的

  • a. 女性向け商品はピンク色が多い
  • b. 企業のマーケティングの結果、ピンク色を好む女性が実際に多いことは事実である
  • d. 上に挙げた a. b. より、女性向けの商品にピンク色を用いるのはマーケティング上の必然である

という論理展開がまず問題です。残念な女性向け商品が作られてしまう「ダサピンク現象」について - yuhka-unoの日記 にて

なぜ出来が残念な結果になるのかというと、「女性ってピンクが好きなんでしょ?」「女性ってかわいいのが好きなんでしょ?」という認識で作られた商品の場合は、「肝心のデザインがダサいから」であり

と述べられている通り、「女性はピンクが好きだから、ピンクを使う」という論理自体が「ダサピンク現象」の原因の一つとなっているのです。

補足として

「好きな色」と「実際に選ぶ色」は、必ずしもイコールではないような気がする。もしも女性たちが、アンケートに答えたとおり、好きな色だけで服を選んでいたら、街中で見かける女性たちのピンク比率は、もっと高いものになっているはずだ

という指摘もあります。(続々々・「ダサピンク現象」について―ピンクは「無難な色」なのか? - yuhka-unoの日記 より)

筆者が「ダサピンク現象」を否定するために持ちだした論理自体がまさに「ダサピンク現象」的だったと言えるでしょう。

「決め付け」でなければダサピンク現象ではないという誤解

  • c. そもそもダサピンク現象の定義とは、「女性ってピンクが好きなんでしょ」という決め付けを指す、製作過程の問題である(=商品の性質を指すものではない)

についても訂正が必要です。元記事の続編のエントリ

それならとことん「ダサピンク現象」を紐解いてみよう 〜本来の定義と二次的な側面との混在が原因 - YU@Kの不定期村

では、ダサピンク現象の本質について

「消費者を舐めた雑なマーケティング」

という言葉で言い表されていますが、この表現が元記事でも使われていればもう少しマシな反応になっていたのではと思います。

元記事の

このフェアの発案者や実行チームが、「女性はピンクが好きだろうからピンクで!」とダサピンク思考でこれを作ったのか、はたまた「マーケティングの結果これが世の女性にウケる!」という当たり前の企業マン思考でこれを作ったのか、その真相は分からない

このような書き方だと、あたかもマーケティングの結果に従ってさえいれば「ダサピンク現象」ではないという風に解釈できます。(そのマーケティングが本当に適切だったかどうかについてはノータッチ)

しかし実際はそんなことはありません。蛇足ではありますが、ダサピンク現象が生み出されるに至る典型例を、図を用いてシミュレートしてみます。

  1. マーケティングにより、「女性はピンク色を好む傾向がある」という事実を観測します。f:id:trashtoy:20150106205711p:plain
  2. 観測結果から、「女性がピンク色が好き」として一般化 (演繹) します。(この段階でNG)

    f:id:trashtoy:20150107134648p:plain

  3. その商品のターゲットにマッチするデザインは何か?という考察をせずに、安易に適当なピンクを採用します。

    f:id:trashtoy:20150107182749p:plain

  4. 採用したピンクは、ターゲットとなる女性の感覚からズレた「ダサピンク」となってしまいました。

    f:id:trashtoy:20150106205712p:plain

この例では、頭ごなしに「女性=ピンク」と決めつけているわけではなく、ちゃんとマーケティング調査を行った上で製作しているわけですが、それでもれっきとした「ダサピンク現象」と言えます。この例だと以下のような問題があります。

  • 稚拙な一般化
  • ターゲットのブレ(女性にも年齢や趣味・嗜好に応じて、ピッタリ来るピンクのニュアンスが異なってくるが、そのような違いを一切考慮していない)

マーケティングの失敗によって生み出される「ダサピンク現象」の例は、キーワードの発案者である宇野ゆうかさんが

続・「ダサピンク現象」について―だから、「ピンクが嫌い」って話じゃなくてさぁ… - yuhka-unoの日記

でも散々言及しています。従って

  • c. そもそもダサピンク現象の定義とは、「女性ってピンクが好きなんでしょ」という決め付けを指す、製作過程の問題である(=商品の性質を指すものではない)

については

  • × 「女性ってピンクが好きなんでしょ」という決め付けを指す
  • ○ (決め付けの有無に関係なく)間違ったプロセスを経て不適切なピンクが生み出されること全般を指す

と改める必要があるでしょう。この c. の内容が間違っていることにより、これを前提としている

  • e. マーケティング結果に従ってピンク色を使用している以上、c. の「ダサピンク現象」の定義で述べている「決め付け」ではないから、それを「ダサピンク現象」と断定することはできない
  • f. 消費者側の視点では、女性向け商品について、それが生み出された製作過程を知ることが出来ないため、それが決め付け (c.) に寄るものか、マーケティングの結果 (d.) なのかを判断することが出来ない

という論理展開の説得力もなくなります。具体的に言うと、元記事で言うところの

「企業がマーケティングの結果として売りたい層(女性)に向けてピンクを用いる」という至極当然の背景と、「女性はピンクが好きだろうという決めつけでピンクを用いる」というダサピンク論法の、この2つの線引きはとても難しい 

この「線引き」は全く意味がないということです。企業がどんなにマーケティングを頑張ろうが、それが結果的に間違っていればれっきとした「ダサピンク現象」です。

そのため、元記事の書き方では「ダサピンク現象」の濫用を戒めるための理由になりません。

使用されている「ピンク」という単語の乱暴さ

反発を産んだ原因に「ピンク」という言葉が非常に無遠慮に用いられていることも挙げられます。

YU@Kさんは追記のほうで

「これを書いている人はピンクを一色だと思っているのでは」という批判を受けましたが、そういった内容は全く書いていませんし、そうも思っていません。ピンクにも多種多様なピンクがある事は知っています。

と述べていますが、元記事を読みかえしても自分にはそのように読み取れませんでした。

なぜ私がそう思うかというと、だって、ピンクが好きな女性は多いからである。
例えば最も身近なところでうちの嫁さんを例にとるが、彼女はピンクのコートをよく着るし、化粧道具はピンク色のアイテムが多い。
そういえば常用している鏡も、裏面は真っピンクだったかな。

疑いようもなく「女性はピンク色が好き」という事実は確かにあり、企業側が「女性にウケるためにピンクを用いよう」と考える事は至極当然ではないか、という事である。

(※一部の強調は私によるもの)

といった具合にすべて「ピンク」の一言で片付けられているため、これだと

  • 女性がピンク(特に種類は問わない)好きなのは事実だ
  • 企業による調査でも、女性はピンク(特に種類は問わない)が好きな人が多いという結果が出ている
  • だから、企業がピンク(特に種類は問わない)を使うのは当たり前だ

というニュアンスしか感じられません。

「ダサピンク現象」が起こる原因の一つに「ピンクにも様々な種類・ニュアンスがあるのに、その微妙な違いを理解せずに不適切なピンクを選択してしまうこと」という点がありますが、この書き方ではそういう側面が一切理解されていないように感じられます。

どのようなロジックで進めれば良かったのか?

元記事が主張したかった流れは

  • 性差による区別というのは確かに存在していて、それは差別とは違う
  • 性差による区別を忌避せず、肯定しよう
    • 忌避するための手段として、安易に「ダサピンク現象」のようなマジックワードでレッテルを張るようなことはやめよう

ということだと思います。正直、このネタで炎上させずに綺麗にまとめる方法は自分でも分かりませんが、対案を出さずに批判だけするのはフェアじゃないので自分なりに考えてみます。

構成を工夫する

一番主張したいことを先頭に書き、「ダサピンク現象」に関する言及を一番下に持ってきたほうが、まだミスリーディングの可能性が少なかったんじゃないかと思います。

「自分が一番言いたかったことはそこじゃないのに…」と散々嘆いておられましたが、読者が自分の文章を最後まで読んでくれるとは限りません。特に前半の内容で反発して、そこで読むのをやめた人が多かったのではないかと思っています。(それを読者の読解力のなさに結びつけるのは少し酷だと思います)

ダサピンク現象そのものについて深入りしない

問題としたいのはあくまでも「レッテルを張るための便利な言葉として、マジックワードが安易に使用されること」であり、「ダサピンク現象」の概念そのものは本題ではありません。言葉の意味のほうにあまり深入りしないほうが良いと思います。

そうではなく、例えば twitter や他者のブログを調査して、「ダサピンク現象」などの用語をまさにレッテルのために利用しているような実例をいくつかピックアップして羅列したほうが、ロジックの流れとして自然かと思います。

まとめ

元記事が反論を受けた原因として、以下のポイントが挙げられました。

  • ダサピンク現象を否定するための論理展開が「ダサピンク現象」そのものだった
  • マーケティングの良し悪しに関わらず、「決め付け」でさえなければ OK なのだ(ダサピンク現象ではない)という解釈
  • 「ピンク」という単語が無遠慮に用いられていて、ダサピンク現象の本質を理解していないように感じられる

また、もしも自分だったらこうするという改善ポイントはこんな感じです。

  • 言いたいことを先頭に持ってくる。ダサピンク現象は主題ではないので最後のほうに書く
  • 「ダサピンク現象」そのものに深入りしない。その代わりに、より本題に近い「マジックワードを使ったレッテル張り」というテーマについて掘り下げる

「性差と差別は違う」あるいは「レッテル張りのための手段としてマジックワードを濫用するのはやめよう」という旨については同意するので、是非ともYU@Kさんの中の「ダサピンク現象」観をアップデートしていただいた上で(続編を拝見した限りでは、ある程度アップデートされていたように見えますが)、もう一度仕切りなおしてもらえたらと思います。